1959年発表の名盤『カインド・オブ・ブルー(Kind of Blue)』で、新しい演奏スタイル『モード・ジャズ』を世に問うたマイルス・デイビスでしたが、彼にとってそれは終着点にはなり得ませんでした。
マイルス・デイビスの音楽は、さらに新しい歴史を綴っていきます。
(『変わり続けた軌跡 -マイルス・デイビスを聴く-《前半》』はこちら)
初期のモード・ジャズは安定したリズムをバックに音階の色彩を味わう、『風景を眺める』かの静的なイメージの音楽でした。しかし彼らは、この初期モードのスタイルを動的スタイルに変えていきます。着地しない和声、固定されないリズム、流動的なソロ、メンバー全員が瞬間反応で構造を変える集団即興で、『風景そのものが動く』音楽を体現しました。
1968年、ハンコックがエレクトリック・ピアノ『フェンダー・ローズ』を導入。同時期にカーターがエレクトリック・ベースを試用し、さらにジョン・マクラフリン(G)の加入します。これにより、電化楽器の特徴である『音の持続』『エフェクト効果』『反復性』、さらにエレキギターの『音の厚みと歪み』が加わり、アコースティックでは困難だった漂う時間や溶ける感覚が楽曲に生まれます(『ビッチェズ・ブリュー(Bitches Brew)』)。
電化楽器と相性のよい、強いビートを持つロックや、反復性の強いファンクのエッセンスも吸収することで、マイルスの音楽はエレクトリック・ジャズの領域に突入。ウッドストックやロックフェスへの出演も果たします。この時期、音楽の自由度は極大化し、マイルスの音楽活動は最盛期を迎えます。
しかしこの電化期の活動が、マイルスを身体的・精神的・生活的に追い詰めることになります。体調の不調とプレッシャーから、彼はコカインやアルコール、鎮痛剤を大量摂取し、生活が崩壊。
「音楽を聴いてもなにも感じなくなった」と言い残し、ステージを去ることになります。
1980年、マイルスは、後に妻となる女優シセリー・タイソンや若き友人マーカス・ミラーらの応援を受け復活。シンセサイザーやファンク/R&Bのエッセンスも取入れ、聴きやすく都会的なサウンドで第二の黄金期を演出しました。革命性が消失した、ジャズではない、商業的だ、などの非難もありましたが、トランペットの表現力の深化、ジャズ・リスナーの拡大、ミラーをはじめとする若い世代の育成など、復帰後のマイルスの音楽も現在では高い評価を受けています。
マイルス・デイビスの『変わり続けた軌跡(後半)』を綴った名盤を紹介します。ぜひお聴きください。
E.S.P (超感覚的知覚)
【オススメ】第二期クインテットの始動。ポスト・バップの新しい構造美を確立。《1965》
プラグド・ニッケル vol.1+vol.2
即興の極限を示す伝説的ライブ。バンドの解体と再構築が連続する革新的演奏。《1965》
マイルス・スマイルズ
【オススメ】ポスト・バップの代表作。抽象性と緊張感が高次元で融合。《1966》
ネフェルティティ +4
メロディをリズム隊が主導する逆転構造。第二期クインテットの実験性が頂点に。《1967》
ウォーター・ベイビーズ +1
エレクトリック期直前の未発表音源。アコースティックから電化への移行を示す作品。《1967-68》
キリマンジャロの娘 +1
エレクトリック期の入り口。ロック的リズムと新しい音響処理が現れ始める。《1968》
1969マイルス
エレクトリック期初期のライヴ。ファンク的要素が強まり、音楽の方向転換を示す。《1969》
イン・ア・サイレント・ウェイ
【オススメ】静謐なエレクトリック・ジャズの幕開け。アンビエント的美学を提示した革新作。《1969》
ビッチェズ・ブリュー +1
【オススメ】エレクトリック・ジャズの革命点。ロック、ファンク、電子楽器を融合し、フュージョンの扉を開いた傑作。《1970》
ビッチェズ・ブリュー・ライヴ
エレクトリック期初期の荒々しいライヴを収録。スタジオ版の混沌を生演で再構築。《1970》
ジャック・ジョンソン
ロック的ギターを中心にした攻撃的サウンド。ファンク・ジャズの原型。《1971》
ライヴ・アット・ザ・フィルモア・イースト
エレクトリック期の爆発力を示すライブ。長尺即興の魅力が際立つ。《1970》
ブラック・ビューティー
エレクトリック期の混沌と疾走感を凝縮。バンドの勢いが最高潮。《1970》
マイルス・デイビス・アット・フィルモア
1970.6.17~20の連続公演の音源を再編集。日毎変化する即興の構造が面白い。《1970》
イン・コンサート
ファンク色が濃いエレクトリック中期の音源。リズムの反復と集団即興が中心。《1972》
オン・ザ・コーナー
【オススメ】ミニマル+ファンク+電子音の実験作。後のヒップホップやクラブ文化に影響。《1972》
ダーク・メイガス
エレクトリック期後半の混沌と爆発力・・・。極限の即興が渦巻くライブ音源。《1974》
アガルタ
【オススメ】1975.2.1大阪での昼公演。エレクトリック期の頂点。長尺の構築美とファンクの強烈な推進力。《1975》
パンゲア
【オススメ】1975.2.1大阪での夜公演。ミニマル的な深い反復が生み出す、闇の如き瞑想の音響世界。《1975》
マイルス!マイルス!マイルス!
音楽が戻ってきた・・・マイルス復帰直後のライヴ。80年代サウンドへの転換点。《1981》
ウィ・ウォント・マイルス
復帰期の代表的ライヴ。エレクトリック・ファンクの新しい形を提示。《1982》
デコイ
シンセとファンクを融合した80年代的サウンド。ポップ性が強い。《1984》
ユア・アンダー・アレスト
ポップ色、R&B色が濃い作品。社会的テーマも扱う異色作。《1985》
オーラ
ペア・ミケルボー作曲のマイルスをテーマにしたクラシック+ジャズ+現代音楽を融合した楽曲。《1989》


