演歌は若者には人気がない、これは今や業界の常識です。
しかし実際にJOYSOUNDなどのランキングを見ますと、石川さゆりさんの『天城越え』や『津軽海峡冬景色』、坂本冬美さんの『夜桜お七』、八代亜紀さんの『舟唄』などはいつも上位に名を連ねています。必ずしも、すべての演歌や歌謡曲が『×』ではないようです。
なぜ演歌や歌謡曲が現代の若者に受けないのか、脳の働きから考えると面白いのではないか、と思いつきました。
人間はどういう仕組みで『快感』や『喜び』を感じるのか・・・それは脳から分泌される『ドーパミン』という神経伝達物質の影響とされています。『ドーパミン』は私たちに快感や喜びを与え、この快感をまた得たいと欲することでモチベーション向上にも繋がります。10代から20代前半の脳は神経が鋭敏なため、変化や強いビート、複雑で予測を裏切る展開の曲を聴くと、強い刺激が脳に与えられ、大量のドーパミンが分泌されます。結果、リスナーは大量の快感を得ることになります。
一方、一般的な演歌は、前奏があり、抑揚を抑えたステメロがあり、サビで一気に爆発という安定した構成が多く、カラオケ歌唱を前提にした楽曲は特にメロディも予測しやすいものになっています。テンポも一定のものが多く、総じて楽曲の密度が薄いため、即時的な快感を求める若い脳には刺激が弱く、ドーパミンの分泌が促されない、つまり快感を得にくくなるようです。
また脳の成長の問題もあります。人間の脳が特定の音楽様式やリズム、音階、発声法を自然に吸収しやすい時期は、14歳〜22歳頃と云われます。この時期に聴いた曲は『自己のアイデンティティ』として記憶され、その後の音楽的嗜好の基礎=BASEになると云われています。『ザ・ベストテン』や『夜ヒット』などでJ-POPやROCKと共に演歌/歌謡曲も聴いて育った昭和世代と異なり、2000年以降の世代は、ほぼ演歌や演歌系歌謡曲を聴かずに成長しました。そのため、脳が演歌を『自分の音楽』と認識しにくくなったと思われます。
演歌の特徴の一つに音程を細かく揺らす『こぶし』があります。この『こぶし』を含む『節回し』という音楽表現は、演歌や昭和歌謡だけでなく、民謡や浄瑠璃、浪曲、さらにはブルースやフラメンコ、インドのラーガなどにもみられます。
この節回し主体の音楽を聴くと、音の細かい変化をキャッチする『聴覚野』や、感情をコントロールする『偏桃体』の活動が活発化することが知られています。予測できない音の揺れや、歌手の息づかいを脳が深く読み取ろうとするためです。結果、脳はじっくりと感動を味わうリラックス状態になります。演歌や昭和歌謡が『エモい』『チルい』と云われるゆえんです。
一方、ビート主体の音楽は脳の『運動野』や『小脳』を刺激します。これは脳の中でも身体を動かす部分です。脳が自動的に音楽と身体を合わせようと働き、自然と体が動き、興奮を促す「ドーパミン」がたっぷり分泌されます。
現代の若者はビート主体の音楽の代表であるAuto-Tuneやボカロ、EDM(エレクトリック・ダンス・ミュージック)などに慣れているので、節回し主体の音楽を聴くと、節回しの『揺れ』を情感とは認識できず、古い、不安定などと認識するのです。
これは脳の働きとは直接の関係ないのですが、演歌のテーマと、若者の人生経験の隔離があり、共感できないことも大きな原因だと思います。
演歌や歌謡曲では、別れ、酒、旅情、義理人情、我慢、未練、忍耐、あきらめ、などが歌われます。しかしこのテーマ、『街中で、SNSを使って恋愛し、自分らしく、前向きに生きていこう』という現代の若者に
「そうだなぁ・・・わかる、わかる」なんて共感を与えられるのでしょうか?
私たちは誰しもが自分の所属する文化の価値観に合致した情報や行動を『自然な行動』『共感できる考え方』と感じがちです。今の若者たちから見れば、多くの演歌や歌謡曲の語り口は、「重っ・・・!」だったり、「暗っ・・・」だったり、「変なヤツ」だったりするかもしれません。

とはいえ、私自身は演歌や昭和歌謡の世界観を嫌いではありません。吉幾三さんの『酒よ』や『かあさんへ』、健さんの『男なら』、春日八郎さんの『新選組の旗が行く』、石川さゆりさんの『棉の花』・・・好きな歌はたくさんあります。
現代を生きる人の多くの脳は、デジタル疲れや情報疲労、過刺激を起こしているという学者もおられます。そういう人には演歌や昭和歌謡の余白のある楽曲が反ってここちよいと思います。
また演歌や歌謡曲には、人間の息遣い、不完全さ、生々しい声、感情の濃さ、がつきものです。人間っぽい音楽と云えるかもしれません。
私個人としては、演歌や歌謡曲のともしびを照らし続けるためにも、今の若者も感動し、カヴァーしたくなるような楽曲が、1曲でも多く生まれることを望んでやみません。
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