時折、落語をプレゼントしたいので見繕ってほしいというご注文を戴きます。
落語は、人気がある噺家さんほど個性が際立ちがちです。私自身は志ん朝師匠や先代の文枝師匠、鶴光さん。新作なら喬太郎さんなどが好きですが、こればかりはお客さまによって、さまざまです。

柳家さん喬 落語紹介
今回、紹介する柳家さん喬師匠はその数ある人気噺家さんの中でも、聴けば聴くほど嵌る噺家さんだと思っています。正直、語り口に派手さはないと思います。惣領弟子の喬太郎さんや桂枝雀師匠のような突き抜けたハイテンションはありませんし、柳家喜多八さんや昔昔亭桃太郎師匠のような独特の空気感を醸し出すわけでもありません。
出囃子とともにスーッと入ってきて、丁寧にお辞儀をし、やわらかく入る、『堅実』という言葉がしっくりくる噺家さんです。
柳家さん喬師匠は、古典落語、それも人情噺の名手として知られます。ゲラゲラ笑わせるような落語ではなく、登場人物一人ひとり感情の揺れを、台詞やしぐさ、そして『間』という言葉にならない言葉で表現することで、人間という存在自体のおもしろみや、その人間同士が生み出す物語を聴かせます。
古典落語のストーリーには大きな事件もありますが、普通なら気にもとめない些細な出来事もけっこうあります。関わる人の心情や行動の裏に隠された思いを考えなければ、一行か二行で終わってしまう話もあります。でもそんな些細な出来事でも、関わる人にとっては、大きなきっかけであったり、忘れられない思い出だったりします。現実でもよくあることではないでしょうか。
さん喬師匠の落語のもう一つの魅力は日々、変わられているように感じることです。何年か前にテレビかラジオでさん喬師匠が新作落語をされているのを聴きました。当時、喬太郎さんが古典落語をよくやられるようになり、それと入れ違いのように、さん喬師匠が新作を演じられたので記憶に残っています。当時は新機軸かな?なんて思っていましたが、どうもこの方は、型を大切にするが、型に捉われない方のようです。
『型』というのは、何十年、何百年かけて、先人が積み上げ、これでほぼうまくいくと実証された段取りのようなものです。これを一生懸命やれば、少なくとも大失敗には終わらないし、あまり非難もされないでしょう。
けれど最大の課題は『自分自身が飽きること』です。飽きれば、知らず知らずのうちに力が抜けます、思いがこもらなくなります。そうすれば『型』は維持できません。『型くずれ』します。いつも自分が飽きないように、新しい事を取込み、時折遊びや寄り道もすることで、『型』にも命が吹き込まれていくのかもしれません。
喬太郎師匠がインタビューか何かで、さん喬師匠について語られていたことがあります。ご自分がされるのとは全く異なるナンセンス落語やポンポン洒落を言うような落語を見て、「あれでいいんだよな」と仰られたそうです。
自分のやり方だけでなく、他のやり方も認め、時には試してみる。その寛容な好奇心と、遊び心が、大きくではないのですが、静かに、確実に、さん喬師匠の落語を日々、革新している、大袈裟ですが、そんな感じかもしれません。
人間を描く落語。人と人のなにげないやり取りの中に価値を見出す落語。それがさん喬師匠の落語の魅力なのかなと思います。
できれば一度、聴いてみてください。
そしてピンと来なくても1年後、もう一度聴いてみてください。1年前と変わったあなたが聴くさん喬落語はあたらしい演目に変わってるかもしれません。
≪参考 柳家さん喬の落語≫
● 柳家さん喬 落語CD/DVD一覧
≪オススメ さん喬落語 三選≫
▶ 文七元結
人情噺の傑作。登場人物各々の思いや葛藤を丁寧に描き、ラストの爽快感と感動で締めくくる・・・さん喬落語の現時点での最高傑作かもしれません。
▶ 芝浜
大晦日の定番落語。夫婦の情愛をよりきめ細やかに描くのがさん喬流です。酒を断ち懸命に働く夫と、それを支えようとした妻の嘘。温かい気持ちで年明けを迎えられる一席です。
▶ 幾代餅
一途な職人と花形花魁・幾代太夫の純愛物語。ベタにならない上品な色気と、さん喬師匠本来の誠実さ、清潔感が物語によく表れるた演目で、後味がとても幸せな一席。
≪参考 本文に登場した噺家さんの落語≫
◎ 古今亭志ん朝 落語CD/DVD一覧
◎ 五代目 桂文枝 落語CD/DVD一覧
◎ 笑福亭鶴光 落語CD/DVD一覧
◎ 柳家喬太郎 落語CD/DVD一覧(関連記事 その1 その2)
◎ 桂枝雀 落語CD/DVD一覧(関連記事 その1 その2)
◎ 柳家喜多八 落語CD/DVD一覧
◎ 昔昔亭桃太郎 落語CD/DVD一覧(関連記事はこちら)


