製作費の高騰や情報やエンタ市場の多角化で視聴者の飽きが早くなったなど、さまざまな事情で現在は1クール(3カ月)回転のドラマが多いですが、昭和、特に1980年代までのドラマは2クール(半年)ものの作品が多くありました。
1977年放映の萩原健一主演の『祭りばやしが聞こえる』も全26話・2クールの放送でした。
このドラマ『祭りばやしが聞こえる』は『前略おふくろ様』『傷だらけの天使』と並ぶ萩原健一初期のヒット作です。
レース中の事故で再起不能とも思われる大怪我をした競輪選手・沖直次郎(萩原健一)が、山梨県下吉田の片田舎で復活の療養を続ける中で、いしだあゆみ演じるキクをはじめさざまな人との出会いを通じて、自分のこれからを見つめなおす作品です。26話を通じて、直次郎は行きつ戻りつを繰り返し、ときには奮い立ち、時には廃業を決意し、弱音と強がりを繰り返して、少しづつ復帰の階段を登っていきます。
キクは、直次郎の先輩選手、高橋鷹男(山﨑努)の妹で既に28歳。高橋家の実家・日影旅館を母と一緒に守っています。物静かでしっかり者の女性ですが、過去に結婚の約束を反故にされt経験があり、人と深く関わるのを避けています。

『祭ばやしが聞こえる 』より
一家の問題児である兄・鷹男が連れてきた正体不明の男・直次郎の世話を戸惑いつつも続けていたのも、ただそれが高橋家の娘、鷹男の妹の役割だと思ったからでしかなかったと思います。
けれど、彼女は徐々に気づき始めます。直次郎が心から自分=キクの存在を必要としていること。娘でも、妹でもない。一人の人間、女性として傍にいてほしいと思っている・・・言葉ではなく、彼の不器用な優しさや、照れ笑い、ふと呟く不安・・・そんなものからキクは直次郎の叫びを聴き取ります。
このドラマはとにかく沈黙が多いのです。
でも沈黙は『無』ではない。キクと直次郎の二人の間には、いつしか言葉を介さない会話が生まれ始めるのです。

ショーケンといしだあゆみ
言葉にない台詞を聴かせる・・・これは日本の物語の真骨頂です。
近頃の映画やドラマには、やたら台詞が多い作品が多くあります。独白や場面設定まで台詞に埋め込んでしまうのが近年の主流派です。ドラマや物語を、文化が異なる国でも見てもらうにはそうしないといけない場合もあるでしょうし、脚本家にとってはその方が安心なのかもしれません。
でもあなた自身を、あなたの身近な人々をよく見てみてください。あなたもかれらも、自分のことを全て語るわけではありません。もっと云えば、私たち自身、自分の感情をすべて把握できているわけでもありません。
『おめでとう』と思っているのにどこかで湧いてくるジェラシー、他人と比べて訳もなくこみ上げる不安、見も知らぬ子供たちの笑い声で感じる幸福・・・私たちのすべてを言葉に置き換えるなど、到底不可能ではないでしょうか?
『沈黙』を言葉にしたドラマが、この『祭りばやしがきこえる』なのかもしれません。
今回、初DVD化された『祭りばやしがきこえる』は、全映像のHDリマスタリングを敢行。より鮮明な映像で楽しめるようになっています。
当時の風景も、一緒に楽しんでいただければと思います。テキ屋の親分 善吉(室田日出男)が物語に深く関わってくる関係でお祭りシーンも多く登場し、現代とは異なる夜市の風情が楽しめます。
今も昔も変わらぬ、人の情をお味わいください。
萩原健一主演
『祭りばやしが聞こえる』
(DVD6枚組/送料サービス) ご注文/あらすじ




