アメリカとイスラエルのイラン空爆をきっかけに、テレビでは関連ニュースが多く取り上げられています。その殆どはアメリカ等の空爆と日本政府への非難、イランの核兵器開発や政治指導者交代が占めています。もちろん大切なことですし、さまざまな意見や見解があるでしょうが、その内容も理解できます。
ただ一方で、中東という地域的枠組において、イランの特異性に触れた情報提供はあまり見受けられません。
日本では昨年、熊被害拡大が重大な問題となりました。人命を守るには熊の駆除は必然だったと思います。しかし長期的な視野で見れば、人間と野生動物の共生の限界が改めて注目されました。
同様に今回、イランへのアメリカやイスラエルの懐疑が頂点となり、アラブ諸国でさえ一部はその攻撃を黙認した背景はなんだったのか、考えてみたいと思います。
まず大切なのは『イランはアラブ諸国ではない』という事実を認識することです。中東に位置する有力な石油産出国ではありますが、文化も価値観も国家体制も、他の国々とは大きく異なっています。代表的な違いは次の5つです。
2.文明の違い(ペルシャ語 vs アラビア語圏)
3.政治体制の違い(神権政治 vs 王政or軍政)
4.地域戦略の違い(ネットワーク型 vs 国家主導型)
5.地政学的要衝である
イランはイスラム教シーア派の大国です。アラブ諸国や中東の多くの国はイスラム教スンニ派が主流派の国が多いようです。
シーア派とスンニ派の分離は、もともと預言者ムハンマド(マホメット)の後継者選びが発端です。スンニ派が『共同体が選んだ指導者』を正統としたのに対し、シーア派は『預言者の血統を継ぐアリーとその子孫』を正統と考えました。
現在はスンニ派が多数派となり、シーア派は60~70%がイランに、残りの多くはイラク南部に暮らしています。シーア派では理念が非常に大切にされます。殉教やシーア派の正義を重んじられ、政治にもそれが反映されやすい傾向があります。
これに後述する政治体制や歴史的背景、地域戦略が重なり、他の中東諸国とは異質の行動に出ることが多いようです。
イランは古代ペルシャ帝国を起源とするペルシャ人の国家です。アケメネス朝から続く古代ペルシャ帝国の伝統を受け継ぎ、イスラム化後もペルシャ文化を守り通してきました。一方、アラブ諸国はもともとアラビア半島を中心に部族社会を形成していました。7世紀のイスラム拡大で徐々にまとまりができたようです。そのため、歴史、言語、文化、全てが異なっています。
特に言語は、文法や単語レベルまで根本的に異なります。ペルシャ語は英語やインドのヒンディー語に近い言葉です。アラビア語はセム語族。イスラエルのヘブライ語や、古代中東の共通語だったアラム語に近いと云われます。共にアラビア文字系を使い、一部に語彙の重なりがあるものの、通訳なしでの意思疎通は困難と云われます。
独自の言語と美意識を守ってきたイランは、文化的自立心が強く、国家も独自路線を重視する傾向があると云われます。
イランは、宗教指導者が最終権限を持つ神権政治+共和制=イスラム共和国という独自の政治体制で運営されています。他のアラブ諸国が、部族社会やスンニ派の共同体意識を基盤に、王政や国家主導で統治するのとは一線を画します。
前以て部族間などで合意形成がなされるアラブ諸国では、秩序維持が重視される傾向があります。しかし強大な権力を持つ宗教指導者が統治する体制では、意思決定の速さや実行の確実性には優れるものの、対立や不満を生み出す可能性が高くなります。
体制の良し悪しを簡単に断じるべきではありませんが、外交姿勢や国民の価値観に明確な対照を生み出すことは間違いありません。
サウジアラビアなどのアラブ諸国が、王家や国家主導による正規の国家間外交、さらには資源力で主導権を握ろうとするのに対し、イランの地域戦略はネットワーク型であると云われます。
シーア派盟主とも云うべきイランでは、宗教的ネットワークで繋がる同調勢力を通じて、中東での影響力を拡大しています。例えばレバノンのシーア派武装組織・ヒズボラ。シリアのアサド政権(シーア系アラウィ派)、イエメンのフーシ派、パレスチナのハマス(スンニ派)やイスラム聖戦、アフガニスタンのハザラ人コミュニティ、イラクのシーア系民兵組織などが挙げられます。
今回、イスラエルがイラン攻撃を強く要請したという説もあります。イスラエルと、ヒズボラやハマスとの対立を考えれば、その経済的、政治的援助を推測されるイランへの敵意も想像に難くないところです。
イランは、ペルシャ湾とカスピ海、中東・中央アジア・南アジアを結ぶ『交差点』に位置する回廊国家です。同時に海路に於いても、今回問題になっているようにホルムズ海峡を領しており、世界のエネルギー安全保障の要となっています。東西南北すべてに影響力を及ぼせる稀有な国家です。

いったん戦争が起こってしまえば、無数の血が流され、簡単には消せない恨みが残ります。復興できるか定かでない瓦礫の山の中で、人々は家族や友人を失った寂寥感と哀しみ、拭いきれない怒りを抱えたまま、生き続けることになります。
人それぞれ、意見は異なるでしょうが、戦争を起こさないこと、起こされないこと、命を奪わないこと、命を奪われないこと、がなにより大切だと思います。
そのために兵器が必要ならば持つしかないし、祈りが必要なら祈るべきです。
CD屋の親父が言っても、なんの意味もありませんが戦争は起こらないことが一番肝要だと思います。
≪参考:ペルシャとアラブを知るために≫
▷ イランの世界遺産 -古都イスファハーンとペルセポリス遺跡-(DVD)
▷ 南アラビアの世界遺産 -サナア旧市街と旧城壁都市シバーム-(DVD)
▷【朗読】コーランを知っていますか/阿刀田高(CD7枚組)
▷【朗読】千夜一夜物語(CD2枚組)
▷【朗読】船乗りシンドバッド 七つの冒険譚- /菊池寛訳版(CD2枚組)
▷【映画】ガンジー&アラビアのロレンス(DVD or ブルーレイ)
▷【映画】No Other Land -故郷は他にない-(DVD)
▷【アニメ】アラビアンナイト・シンドバットの冒険(DVD6枚組/送料サービス)
▷【アニメ】アラビアンナイト・シンドバッドの冒険(DVD)




