五街道雲助師匠の廓噺ばかり収録した落語CDが発表されました。
廓という風俗が廃れ、時代劇でさえポリコレ(political correctness)の影響で、廓の風景を忌避する現代です(某大河ドラマは除く)。廓噺もいずれ消えゆく運命かもしれませんが、今も昔も変わらぬ人情、特に男女の機微を楽しんで戴ければと存じます。
廓(くるわ)とは、江戸時代に公的に認められた遊郭を指します。江戸では吉原、京都では島原、大阪の新町などが代表でしょう。品川宿や千住宿、深川などの岡場所や宿場女郎、旅籠や水茶屋の私娼、舟饅頭やけころなどは、廓とは呼びません。
廓には性風俗だけでなく芸能や宴席などの要素も大きく、外界から限られた空間の中で人々はある程度ではありますが、身分を忘れ、羽を伸ばしたと云われます。華やかさと哀しみ、知性と欲望、嘘と誠が入り乱れた世界で、文化や芸能、文学などが独自の発展を遂げた場所でもありました。
その一方で、廓の掟は徹底されており、厳しい規則と身分制度で統制されていました。このことで治安が守られ、人々は安心して遊べたとも云われます。
廓噺は、江戸の公許遊郭である吉原を舞台にした落語のことです。遊女や若い客、旦那衆、幇間などが織りなす、恋の機微、金銭の駆け引きなどにまつわる人情や滑稽を描きます。素直に笑えない噺もときにあり、『華やかさの裏にある哀』が漂うのが物語の奥深さにもなっている気がします。
もちろん『だまし だまされ 男女の仲』といわれるように、男と女のやり取り、男同士の遊女の取り合い、この駆け引きが一番の聴き処だと思います。
個人的には、真面目過ぎる若旦那の初体験を描く『明烏』や、嘘から出た誠の愛に涙する『たちきれ線香』、貧の中に気づく夫婦愛を描く『お直し』なんかはお薦めしたいと思っています。
五街道雲助の廓噺には『江戸の色気』と『人間の深み』があると云われます。雲助師匠がたぶん実際の吉原に遊んだ最後の世代ということも影響していると思います。
吉原の灯り、湿った夜気、遊女の息遣い、客の浮つき ・・・江戸の匂いというのでしょうか、空気の質感がそのまま浮かび上がってきます。
廓噺に限らず、落語のおもしろさの根源は、登場人物ひとりひとりを、実際に生きている人間の如く描ききることにあります。落語が人間に興味のある人の演芸と呼ばれる所以です。同じ噺でも、登場人物の個性が際立つことで、幅が拡がってくるのです。
噺家には男性が多いせいもあり、女性を演じる場合、しばしば記号的、ステレオタイプ化して描きがちですが、雲助師匠は異なります。女性に限らず、記号的な人物描写があまりなく、それぞれの登場人物が一人ひとり異なる人間として描かれます。言葉にせずとも醸し出す、そこに雲助落語の真骨頂があります。
たとえば、今回のCDに収録された廓噺の女性たち。なんともたくましい。廓に生きる女としての誇り、したたかさをもつ一方、かりそめとは言えど肌を合わせた男への情、すべては一夜の夢という儚さ、こうした複雑な心の揺れを、一言の間合い、声の湿度などで表現するのです。
それは彼女たちが『(物語の中で)生きている女性』だからに他なりません。
『誠の裏には嘘があり、嘘の陰に誠が潜む』と申します。
吉原という虚構の世界に潜んだ、『哀』と『誠』に気づかせてくれる。五街道雲助の廓噺をぜひお聴きください。
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