アニメ、映画、音楽、絵画・・・日本文化が世界で脚光を浴びる中、名作が次々と復活しています。
その一つが『八犬伝』です 。
正しくは『南総里見八犬伝』。江戸時代末期、文化11年(1814年)から天保13年(1842年)まで足掛け28年かけて、武士崩れの戯作者・滝沢馬琴(曲亭馬琴)のよって著されました。
里見家は、戦国時代に安房の国主として知られた名族です。安房は下総(千葉県南部)の先にあたるため『南総』とつけられたと思われます。
隣国の武将・安西景連に攻め込まれ、危急存亡の里見義実が思わず叫んだ一言。
「景連を討ち取ったものは恩賞は思いのまま。伏姫を花嫁にしてもよいぞ」。
これを聞き、一目散に敵陣に走り込んだものが一人・・・いや一匹。
子牛ほどの大きさもある巨犬・八房。八房は幼い頃から慈しんでくれた伏姫にいつしか愛情を抱いていました。
見事、景連を嚙み殺した八房、当然ながら恩賞に伏姫を求めます。義実は「犬畜生の分際で!」と八房を撃ち殺そうとしますが、伏姫は
「一国一城の主が約定を違えるものではない」とこれを諭し、八房とともに山へと去っていきます。
この一部始終を見ていたのが、里見の忠臣・金鞠大輔。独り、伏姫の行方を求め、旅に出ます。何れの日か、山奥に八房と共に静かに過ごす伏姫を発見。姫が身籠っているのを見て、畜生道に堕ちたかと疑います。姫は八房の気を受けただけと言い張りますが、義実と大輔に詰め寄られ、身の潔白を証明する為に割腹。胎内に犬の子がいないことを明らかにします。
後悔する義実と大輔ですが、その眼の前で姫の数珠が四散。仁義礼智忠信孝悌の八つの大玉が何処かへと飛び去って行きます。義実は死を以て姫に殉じようとする大輔を押し止め、八つの珠を探す旅に送り出すのです。
とこれが物語の発端となる部分です。この後、僧侶『丶大法師(ちゅうだいほうし)』となった大輔が諸国を周り、八つの宝珠を持つ勇士を集め、里見家の柱として迎え入れるのですが、この八人が集結するまでの銘々伝が物語の本篇となります。
終盤、八犬士が勢ぞろいし、扇谷定正らの大軍相手に大活躍する部分もあるのですが、けっこう省略されることが多いです。
八人の犬士は登場順に下記の通りです。
【義】犬川 荘助 義任(いぬかわ そうすけ よしとう)
【忠】犬山 道節 忠与(いぬやま どうせつ ただとも)
【信】犬飼 現八 信道(いぬかい げんぱち のぶみち)
【悌】犬田 小文吾 悌順(いぬた こぶんご やすより)
【仁】犬江 親兵衛 仁(いぬえ しんべえ まさし)
【智】犬坂 毛野 胤智(いぬさか けの たねとも)
【礼】犬村 大角 礼儀(いぬむら だいかく まさのり)
宝珠の八文字は、当時の武士が大切にした八つの心を現わしています。たぶん『儒』の影響が強いと思われます。
私も勉強不足で完全に正しいとは到底云えないですが、大まかには次のような意味合いになるかと思います。
【義】… 正しいことを行う
【礼】… 心を行動で示す
【智】… 最もよい方法を選ぶ
【忠】… 上席のものを敬う
【信】… 同僚や仲間の意見を聞く
【孝】… 父母を大切にする
【悌】… 子や部下など目下を慈しむ
実は八犬士はそれぞれ、己が持つ珠の文字を大切にした挙句、不幸な境遇にあるのですが、それでも彼らは考えを変えないのです。不器用なほどに自らの信じる道を歩もうとします。ただ幸運にも、彼らの志を応援してくれる人々や、巡り合った八犬士の仲間の協力があり、難関を乗り越え、次々と里見の旗のもとに集ってきます。
八犬士同士の戦いあり、共闘あり、すれ違いあり、とけっこう波乱万丈の人生を八人は送るわけです。
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『南総里見八犬伝』は、私も子供のころに何度も読み返した作品です。奇想天外な設定、魅力的な登場人物、妖怪や幽霊、怪物などがどんどん登場するなど、近代のファンタジー小説の傑作だと思います。
一方で、大長編であること、登場人物の善悪がはっきりしていることなどが、近年なかなか映像化されない理由だと思います。八犬士も丶大法師も、善側の人間はどこまでも真っ直ぐで純粋、ぶれません。智珠の犬坂毛野あたりは少し策も用いますが、人として許されない策は用いません。勧善懲悪の物語の為、実際の人間ドラマとは乖離しがちで、海千山千の大人には物足りなく感じてしまうのかもしれません。
そこでドラマや映画化される際は、馬琴の『南総里見八犬伝』を元本に、自分なりのアレンジを加えた作品が用いられることが多いようです。弊店で人気なのは次の2作品です。
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原作は伝奇小説の奇才・山田風太郎。虚となる八犬伝の物語と、実となる馬琴の半生を、シンクロするように話を進めていきます。山田風太郎は後年『魔界転生』や『伊賀忍法帖』『甲賀忍法帖』など、忍法とエロチズムを歴史の影の部分に織り込んだ作品で人気作家となります。
映画では、純粋な八犬伝の物語はそのままに、SFXを駆使した大スペクタクルな作品に仕上げ、その合間に『八犬伝』完稿に人生を賭して挑む滝沢馬琴とその家族の姿を泥臭く、丁寧に綴っています。
原作は鎌田敏夫。『戦国自衛隊』や映画版の『探偵物語』、『俺たちの旅』『金曜日の妻たちへ』『男女7人夏物語』『男女7人秋物語』などのシナリオ執筆で知られます。
原作も読みましたし、映画館にもいきました。駄作、荒唐無稽と映画ファンの友人は言っていましたが、正直おもしろかったです。アクション&特撮作品です。時代劇として見ると???ですが、薬師丸さんはどこまでも可愛いし、真田広之、千葉真一、志穂美悦子も大活躍。京本政樹は相変わらずキレイです。悪役も夏木マリは妖艶だし、目黒祐樹は嬉々として悪役やってるし、萩原流行はいつもながら下品。単純に楽しめる映画に仕上がっています。まぁ、今見ると特撮はちょっとチャチですが・・・。
『南総里見八犬伝』は、森鴎外や正岡子規も愛読したと云われる作品です。200年以上も前に書かれた物語ですが、今なお色褪せることはありません。何年も読み継がれてきた物語にはそれだけの魅力があります。動画などは印象深くて、私も好きなのですが、想像力の育成という意味では課題が残るという研究結果も出ています。
朗読CD、非常にお安いですので、ラジオドラマ代わりにもオススメです。
もし機会があれば『八犬伝』の世界に触れてみてくださいね。






