イギリスでCD売上上昇って本当???

クラシック&音楽談義 時事放談 -世間色々-
クラシック&音楽談義

イギリスの大手新聞ガーディアン紙が、昨年2025年12月23日にCD売上が回復傾向にあると報じました。
ガーディアンは1821年創刊のタブロイド紙で、知的な記事と、徹底した調査で知られます。
とはいえ、なかなか信じられず、いろいろ確認した結果、どうも本当らしいのでご紹介させて戴きます。


英紙ガーディアンが報じたCD復活の兆し
《Mother Goose》 マザーグース~英語で遊ぼう(書籍3冊+CD全3枚)

マザーグース~英語で遊ぼう

 イギリスの2024年度上半期のCD売上が円換算で1230億円、その後も上昇傾向にあるといいます。
ストリーミング先進国であったイギリスでは、ずいぶん早い段階でCD離れが進みました。英国の小売業大手ジョン・ルイスでは、CDプレーヤーの品揃えを増やした結果、過去1年で売上高が74%拡大したと云います。
加えて、アナログレコードやCD、カセットの製造を行うキー・プロダクション・グループでは、CD受注が前年比15%増加したと報じています。

 興味深いのは、イギリスにおけるアナログレコードやCDなどィジカル購入者の中心が、Z世代やα世代であるという調査結果です。過去12カ月間で、Z世代はミレニアル世代、X世代、ベビーブーマー世代よりも多くのCDを購入していることが判明しています。 また、α世代のほぼ半数(46%)がCDを含む物理媒体で音楽を楽しみ、過半数がCDプレーヤーの使用方法を知っていることが分かっています。


なぜ再びCDなのか?

端的に言えば次のような理由が挙げられるかと思います。
1.商品力の向上
2.若年層のデジタル疲れ
3.フィジカル媒体の価値の変化

テイラー・スウィフト / ザ・ライフ・オブ・ア・ショーガール(CD)

The Life of a Showgirl

 1.商品力の向上  
 先日、本ブログでもご紹介したテイラー・スウィフトのニューアルバム、ピンクフロイドの豪華版CDの発売、オアシスやパルプなど90年代UKロックの再評価が追い風になっていることは疑いようがありません。
さらに『モノとして持つ』ことに価値を感じる若年層は、レコードより割安で、持ち運びが便利なCDに注目しています。
弊店でも取り扱っている新品のアナログレコードは、日本では4,000円代半ばから6,000円代後半が通常価格です。イギリスでは日本の価格より3割以上高いこともよくあり、6,000円~8,000円。高価な買い物となります。
また再生産が容易なCDは買い逃しても、次回入荷まで時間がかからないのも魅力になっているようです。

 2.若年層のデジタル疲れ  

《伝説の名盤》ピンク・フロイド『狂気 -The Dark Side of the Moon-』2023REMASTER盤(CD)

ピンク・フロイド『狂気』

 Z世代(10代後半〜20代)やα世代(10代前半以下)は生まれた時からデジタルに囲まれ育ってきました。それ故の『デジタル疲れ(Digital Fatigue)』と、それに伴う新たな価値観の萌芽が推測されています。
タイパ重視の日常も、ともすれば無機質な作業の連続に感じがちです。ジャケットから盤を取り出し、針を落とす、A面からB面へひっくり返す・・・こうした手間が『音楽をじっくり味う幸福なひととき』を演出していきます。
また、常時オンライン上の仮想空間と接してきたZ世代やα世代には、棚に並ぶCDやレコードは、自らの価値観や趣向を物理的に証明する自己表現アイテムにもなります。
情報の洪水とも云うべきスマホ画面から隔離され、ただただ好きな音楽に没頭する、彼らにとっては『デジタル・デトックスなひととき』と云えるかもしれません。

 3.フィジカル媒体の価値の変化  

OASIS/オアシス:ベスト全曲集 -TIME FILES...1994-2009-(CD2枚組)

OASIS/オアシス:ベスト

 CDやレコードは既に『音を出す円盤』ではありません。アーティストとの繋がりを実感できる『証書』であり、生活空間を彩る『アート』であり、デジタルから解放される『サンクチュアリ』となりつつあります。
『(音楽を聴くための)道具』ではなく『(音楽と深く向き合うための)儀式』と云えるかもしれません。
また、ストリーミングは利用権をするためのコストですが、フィジカルは個人所有、個人資産です。自分と大好きな曲との出会いの記念碑でもあるのです。
いずれ、アナログ盤については資産価値も生じてくるかもしれません。作品にもよるでしょうが、絵画や彫刻と同じように売却可能な資産として見做されることも多くなる気がしま
す。


『新しくて贅沢な選択』としてのCD視聴

 グローバルなCD市場は、2023〜2029年にかけて成長が予測されており、2025年に約80億ドル規模に回復したCD販売は2030年まで年平均5%成長と予測されています。
 とはいえ、世界的に見れば、音楽CDは復活というにはまだ早いと思います。
ガーディアンが報じたように増加に転じたイギリス、依然として音楽消費の主体である日本、ドイツなどでも回復傾向がみられる一方、アメリカではストリーミングが圧倒的であり、アジア全体ではデジタル配信が急速に進んでいます。

 しかし今後、価値観の変化と我々が生物であるという事実が、フィジカル媒体をストリーミングの代替品から解放してくれるように思います。デジタルで効率的に音楽を摂取し、フィジカルで情緒的に音楽を体験する、高度な二極化が進みます。
Z世代、α世代の若年層にデジタルストレスがジワジワと押し寄せる中、ノスタルジーではなく、デジタル社会を賢く生き抜くための『新しくて贅沢な選択』として根付いてくれれば、と期待しています。