瀧川鯉昇(たきがわ・りしょう)という噺家さん、知っておられるでしょうか?
関西の方にはあまりなじみがないかもしれません。

令和の落語は、スピード感、めまぐるしいほどの展開、テンポのよい語り口の噺家さんが比較的、人気があるようですが、鯉昇さんの落語は一線を画すところがあります。
ゆったり、のんびり。
シーンがトントントンと変わっていくのではなく、染みわたるように変わっていきます。
間の取り方もあるのですが、語り口が『、』で繋がっていく。『。』では終わりません。
お客さんの反応を見極めつつ、言葉をつぎ足し、物語を紡いでいく感じです。
断定的ではない『、』で繋ぐ語り口が独特の鯉昇落語を生み出しています。
粋な兄ちゃんが屋台の蕎麦屋で蕎麦を食っています。うんちくを語り、やたら蕎麦屋を褒めます。
さて食べ終わって、お金を払う段になる。16文を一文一文、数えつつ渡すのだが、その途中でちょっと一工夫。
それを見てたフーテン。これはいいや!と思いつき、真似をするのですが・・・。
という皆さんご存知のお噺です。
聴く人はあらすじもよくよく知っているし、いろんな噺家さんで何度も聴いている。
でも、それだけに噺家さんによる個性も出、色も出ます。
もっと言えば腕の差が出ます。
鯉昇師匠の語り口は淡々と、けれどキャラ一人一人の人間性を丁寧に描き出します。
蕎麦屋をうまくおだてて一文得する男は粋で話も楽しいが、どこか怪しい。
対する蕎麦屋は実直で素直。
フーテンは悪さをしようとしてるのに、どこかひょうきんさが滲み出ています。
相手の蕎麦屋はヤル気が見えない。先の蕎麦屋とは異なり台詞も少なく、影が薄い。
フーテンが独り相撲して自滅する感じ。
どの登場人物もっけっしていい奴とはいえないけれど、悪い奴とも言い切れない。
ちょっとイタズラ心があったり、虚栄心があったり、ごうつくであったり・・・。
俗にいう憎み切れないろくでなし???
人間の持つ可笑しみさや可愛らしさを、飄々とした語り口で愛情たっぷりに描き出します。
この鯉昇さんの落語と、柳家喬太郎さんや春風亭一之輔さんなどの爆笑系の相性はけっこういい。
爆笑系の後は笑いに勢いが出てるので、簡単に爆笑が起こります。
『爆笑=成功』と云うご意見もあろうが、やはり落語は登場人物の可笑しみや不完全な愛らしさ、人間の生態を楽しむもの。
爆笑系の後に鯉昇さんが演じられることで、場は落ち着き、次の話にフラットな気分で入っていけるようです。
好きな噺家さんの落語だけを収録したCDやDVDも面白いですが、落語会まるごとで一つの作品、そんなDVDも楽しんでもらえれば、と思います。
正直、噺家さん毎の魅力面白みを文章で伝えるのはなかなか難しいです。
もしよければ、先ず一演目、瀧川鯉昇師匠の落語を聴いてみて戴ければ、と思います。
こんな落語も『あり』なんだ。笑いは勢いで起こすだけじゃないんだ、と気づいてもらえると思います。
鯉昇師匠の落語は、令和のハイテンポ落語に対するアザ―サイドなのかもしれません(^^)
《てんちょ~オススメ!瀧川鯉昇落語 ベスト3》
▷ うなぎ屋瀧川鯉昇自慢の改作落語。開店したばかりの鰻屋さん。
鰻を掴むことさえできず四苦八苦。それを見ていた若い客二人が店主にちょっかいをいれたことから、鰻が逃げ出し大騒動。
鰻つかみに執念を燃やす新店主奮闘記。
▷ 二番煎じ
古典の中に現代的な笑いを織り込む鯉昇の十八番。
冬の寒い夜、夜回りの為に集まった旦那衆。
寒さしのぎに猪鍋で酒を飲んでますと、役員がやってきた。
慌てて酒を隠すのだが・・・。
今もありがちなよくある話???
▷ 時そば
習ってから5年をかけて熟成させた演目とのこと。
4人の登場人物の対比とキャラ立ちが絶品で、やることなすこと上手くいかないフーテンのト・ホ・ホ感が半端じゃない。
現代風にアレンジした改作落語『そば処ベートベン』も人気。
《参考》
▷ 落語CD/落語DVDのコーナー


![[落語DVD] 落語会~昔昔亭桃太郎・柳亭市馬・瀧川鯉昇・柳家喬太郎・古今亭今輔(DVD)](https://www.kyoto-wel.com/shop/S81212/prdct/00/38/10/image1.jpg)

