『八百八町表裏 化粧師』は、石森章太郎(後に石ノ森章太郎に改名)晩年の傑作で、長期連載となった『HOTEL』の前に大人向けビジネス漫画として1983年から1984年にかけて連載された作品だ。
江戸時代、化粧品を扱う『式亭正舗』は、ただ女性の美を演出するだけでなく、イベントなどの仕切りを行う広報プロデューサーのような業を営んでいる。
主人の式亭小三馬は若いに似ず、なかなかの策士で、無類の異端児。当然、周囲には一癖も二癖もある仲間たちが集まってくる。
次第に町奉行の鳥居耀蔵やその黒幕である老中・水野と対立するようになる。そして・・・、
という話なのだが、結果的には全31回で、けっこう突然のかたちで終わってしまった。
それがアニメと映画で甦っている。
▷ 【アニメ】八百八町表裏・化粧師(ブルーレイ2枚組)
▷ 【映画】化粧師 -KEWAISHI-(DVD)
このうちアニメ『八百八町表裏・化粧師』は全22話制作されたが、6話が未放送で終了した。
これはこのアニメが人気バラエティ『ギミア・ぶれいく』の1コーナーの枠で放送されており、より面白いネタや興味深い特集があれば、枠変更が頻繁に行われたからとされてる。
このブルーレイ・セットには、この6話も収録されている。原作漫画の持つ
『化粧は本当の自分を引き出すもの』
『隠れた魅力を引き出すもの』
というメッセージと、長いものと折り合いはつけるが、決して屈しない『倜儻不羈(てきとうふき)』の心意気を再現した作品だったと今になって再評価されている作品だ。

ちなみに倜儻不羈とは、独立心が強く、既存の枠にとらわれず自由な精神を持つ人を意味している。
単なる反骨精神ではなく、自らの信念を持ち、社会に新しい価値を生み出す人物を指している。早稲田大学校祖の大隈重信や同志社大学校祖の新島襄は育てるべき人物像としてこの『倜儻不羈』の人物を挙げている。
一方、映画版『化粧師 -KEWAISHI-』。
こちらも日本映画の傑作、椎名桔平の若き日の代表作とされる作品だが、少し趣が異なる。
この作品では先のメッセージ
『化粧は本当の自分を引き出すもの』
『新しい自分に化けるための第一歩』というところが強調されている。
時代を江戸時代から大正に移し、女性の美を前面に押し出すことで、大正デモクラシーのさなかに花開いた竹久夢二的美意識が作品全体を包んでいる。
少し幻想がかった美しい映像と、繊細な音楽、それが抒情詩のように物語を紡いでいく。
主人公小三馬(椎名桔平)は無口で偏屈、何を考えているか定かではない男と云われているが、物語が進むにつれ、彼の隠された過去や純江(菅野美穂)の気持ちを受け入れない理由、だれよりも、だれよりも深く寂しい愛に気づく。彼は云う。
化粧は所詮、外面を整えるもの
心に化粧するのは、あなた自身・・・。
アニメと映画、そして石ノ森章太郎先生の原作漫画。
それぞれに異なる風景がある作品だ。ぜひ一度ご覧いただければ、と思う。